水鏡 - 第02代 綏靖天皇

 次の御門、綏靖天皇と申しき。神武天皇の第三の御子なり。御母、事代主命の御女、五十鈴姫なり。神武天皇の御世、四十二年正月甲寅の日、東宮に立ち給ふ。御年十九。庚辰の年正月八日己卯、位に即き給ふ。御年五十二。世を保ち給ふ事、三十三年。父御門亡せ給ひて、諒闇のほど、世の政事を御兄の皇子に申し付け給へりしを、この御兄の皇子の、弟達を失ひ奉らんと謀り給へりしを、この弟の皇子心得給ひて、御果てなど過ぎて、御門、いま一人の御兄の皇子と、御心を合はせて、かの兄の皇子を射させ奉らせ給ふに、この兄皇子、手を慄かしてえ射給はずなりぬ。御門、その弓を取りて射殺し給ひつ。このえ射ずなりぬる兄の皇子の宣ふやう、「我、兄なりと雖も、心弱くしてその身堪へず。汝は悪しき心持ちたる兄をすでに失へり。速やかに位に即き給ふべし」と申し給ひしに、互に位を譲りて、誰も即き給はで四年過し給へりしかども、つひにこの御門、兄の御勧めにて位に即き給へりしなり。