水鏡 - 第01代 神武天皇

 神武天皇と申しし御門は、顱草葺不合尊の第四の御子なり。御母は海神の女玉依姫なり。又まことの御母は海に入り給ひて、玉依姫は養ひ奉り給へりけるとも申しき。その世に侍りしかども、こまかに〔も〕、知り侍らざりき。この御門、父の御門の御世、庚午の年、生れ給ふ。甲申の年、東宮に立ち給ふ。御年十五。辛酉の年正月一日、位に即き給ふ。御年五十二。さて世を保ち給ふ事、七十六年。神世より伝はりて剣三あり。一は石上神布留の社にます。一は熱田の社にます。一は内裏にます。又、鏡三あり。一は太神宮におはします。一は日前におはします。一は内裏におはします。内侍所にこそおはしますめれ。この日本を秋津嶋とせられし事はこの御時なり。事はるかにしてこまかに申しがたし。位に即かせおはしましゝ年ぞ、釈迦仏涅槃に入り給ひて後、二百九十年にあたり侍りし。されば世あがりたりといへども、仏の在世にだにもあたらざりければ、やうやう世の末にてこそは侍るなれ。